2021.02.19

読んで・観て、キレイを高める! 齋藤薫さんの映画エッセイvol.7

読んでから観ても、観てから読んでも、キレイになれる!
女性の美しさをあらゆる方面から解き明かし、美容ジャーナリスト/エッセイストとして多くの著書や連載を持つ齋藤薫さんが綴る、読むだけでスッと心が軽くなる『美容×映画』連載エッセイ。

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最終回は、時代の変化を感じる今、観ておきたい映画として、『ロシュフォールの恋人たち』『また、あなたとブッククラブで』『死ぬまでにしたい10のこと』をピックアップ。齋藤薫さんならではの視点でご紹介します。

最終回は、時代の変化を感じる今、観ておきたい映画として、『ロシュフォールの恋人たち』『また、あなたとブッククラブで』『死ぬまでにしたい10のこと』をピックアップ。齋藤薫さんならではの視点でご紹介します。

「風の時代」だからこそ観ておきたい映画


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まず、「風の時代」とは何か? 映画のほとんどは「風の時代」の価値観を訴えていた?

やはりこれは単なる偶然ではなく、誰も止めることのできない大きな変化がもたらした必然なのだろう。2020年末、星の巡りによって、200年ぶりに「土の時代」から「風の時代」へと地球規模の時代の変化がやってきたことは、何となく知っているはずだ。これは西洋占星術において、木星と土星の大接近「グレートコンジャンクション」が、200年ぶりに“風の星座”で起きることがその根拠だという。

日頃、星占いはあまり信じないという人であっても、このコロナ禍との驚くべき合致に、無視できないものを感じているかもしれない。なぜなら「土の時代」から「風の時代」への変化は、様々な価値観や人々の意識、生き方にまで大きく影響してくるといわれるが、それでなくてもコロナ禍は人々の価値観や生き方を大きく変えてしまった。それを元に戻そうとするよりも、この際変えていこうという大きなエネルギーを感じる。とすれば無関係であるはずがない。単に星占いの世界の話としては済ませられない、強い磁力を感じるのだ。 

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Photo by PIXTA

それも、これまでの「土の時代」は文字通り、物質やお金、形あるものこそ重要と考えてきた。その象徴といえるのが、産業革命であり、高度成長であり、バブル。ブランド信仰であり、所有することだった。地位にこだわることも、やっぱり「土の時代」の価値観なのだ。逆に、「風の時代」は目に見えないもの、まさしく風のように流れていく情報や知識、そして学ぶことや考えること、感じることが重視されて、物質よりも心、財産よりも知性感性、地位よりも人と人との関係がより大切になるという。

とすれば、とても素晴らしい時代。ずいぶん前から私たちは、物より心、内面の美しさほど大切という価値観を持ちたいと考えてきた。それでもやっぱり物質欲は消えず、見た目の美しさにこだわってしまう、ただそれもやむなし、“人間だもの”と考えてきたけれど、何かもっと当たり前に、もっと自然に物より心という本質が体の中に入ってくる、そういう時代の始まりなのだ。
 
そして考えてみると、映画はいつも時代を先取りしてきた。それこそ、「物質のほうが大切、お金や地位や名誉のほうが大切」と高らかに謳う映画なんてあっただろうか。どんなジャンルのどんな映画も、やっぱり「物より心、内面の美しさが大切」という「風の時代」の常識を、先んじて訴えてきた気がする。どんな映画でも結末は必ずそういう教えとなる。それが映画なのだと言っても良いほど。そう思うと、尚のこと映画って素晴らしい。
時々、何のために映画を観るのか? と考える事があったけれど、要は次なる時代の本質を知るためだったのだと、今更ながら気がつかされた。だからこそ「土の時代」に作られた映画の多くが、「風の時代」の価値観を持っていたと考えて良いわけで、今回はそれを象徴するような作品をここに上げてみたいのだ。


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心地よい風に運ばれるようにして2時間が過ぎていく、切なく美しい『ロシュフォールの恋人たち』

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すべての女性に観て欲しいと思う映画が1本ある。もう半世紀以上前に作られたフランスのミュージカル映画、『ロシュフォールの恋人たち』である。先ごろ逝去したミシェル・ルグランの音楽と、映像の美しさ、女優たちの美しさは、映画史上に残るもの。しかしそれだけでは到底語れない、人の心の琴線に訴えかけるα波のような不思議な力を持った映画なのだ。

当時はアメリカがミュージカル映画全盛だった時代、フランスもミュージカルを作ってみようとなったのだろうが、これがとてつもない傑作になった。数年前のアカデミー作品、『ラ・ラ・ランド』はこの作品のオマージュとも言われるが、逆に『ロシュフォールの恋人たち』のほうにさらなる洗練と新しさを感じてしまうほど。
 

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『ロシュフォールの恋人たち』より

ストーリーは、フランス映画特有のスパイスやひねりや不思議さが混ぜ込まれているもののとてもシンプルで、何組かの男女が繰り広げる、出会いと再会、すれ違い。まさしく人はみな運命の人と出会うために生きている、といった人生謳歌の物語となっている。 
けれども全編を通じてなんだか切ない、ときめきと胸騒ぎを合わせたような切なさがずっと続くのは、その音楽のせいなのだろう。アメリカのミュージカル映画と決定的に違うのは、核になっている音楽がすべてマイナーコード、短調で作られていることなのだ。

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『ロシュフォールの恋人たち』より

同時に目に入るもののほとんどがパステルカラー。街の風景がすべてカラーコーディネートされていて、とあるシーンは、街の中が白とブルーのみ! 行き交うトラックまでが美しいブルーというふうに、混ぜ物のない完璧な美しさを見せてくれるのだ。

双子のヒロインを演じるカトリーヌ・ドヌーヴとその実姉(この映画の公開年に事故で逝去)は香水が匂い立つような美しさ。まさにフランスにしかない耽美主義に何度観ても酔わされる。
 

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『ロシュフォールの恋人たち』より

ひょっとするとヒロインを演じた女優がその直後に“この世を去った事実”に掻き立てられる切なさもあるのかもしれないが、ともかく感性が揺り動かされ、五感の全てが沸き立つよう。心地よい風に運ばれるようにして2時間が過ぎていく作品なのである。
何かこういうものに身体ごと浸り切るのも、「風の時代」の始まりにふさわしいのではないかと思ったのである。 


 『また、あなたとブッククラブで』

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『また、あなたとブッククラブで』より

最近公開されたばかりで、DVD発売まで少し時間が開くのかもしれないが、「風の時代」にあえて観たい映画の2本目はこれ。間違いなくやってくる“人生100年時代”を考えると、こういう映画を早いうちから若いうちから観ておくことが、より良い人生を送る有意義な準備であると感じたから。
4人のヒロインの平均年齢は、撮影当時72歳! しかし老後の生き方を描く映画ではない。それぞれがそれぞれの人生において改めて恋をする、またはしようとする設定は、『Sex and the City』のシニア版とも位置付けられるが、そこに無理矢理感や痛々しさは感じられない。充分にセクシーでキュートで、一目惚れだってされてしまうストーリーも不自然でないほど。それをまた私たちも新しい現実として、まっすぐに受け止められること自体に、時代の劇変を感じるのだ。 
 

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『また、あなたとブッククラブで』より

寿命が100歳まで延びたとしても、その分だけ人生が素晴らしいものにならなければ正直意味がない。今はだから健康寿命について盛んに提案がされているけれど、次に大切なのは生きがい。でも趣味やサークルだけでは持たないほど、時間も感性もたっぷり有り余っている。
そういう意味で心の隙間を埋める大きなカギはやはり恋愛。となるわけで、70過ぎでも恋愛が成立するならば、30代も40代も、何か心の持ちようが変わってくるはずなのだ。
そんなに長く恋愛年齢が続くならばと、良い意味での緊張感や目の前がぱっと明るくなるような希望、そして未来へのドキドキするような興味が一気に高まってくるはずなのである。
 

BOOK CLUB

『また、あなたとブッククラブで』より

それこそ「風の時代」を先頭切ってイキイキと生きていく、“100年人生”という未来を見せてくれた功績は、本当に大きいと思う。しかもこの映画にはどうしたら70過ぎて本気の恋愛が成立するのかというテクニックがたくさん盛り込まれている。ファッションから、会話、体型づくり、出会いの方法まで本当にいろいろ、そういう意味でのリアルで粋なマニュアル的1本にしたいのである。


   『死ぬまでにしたい10のこと』

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これもやっぱり一度は観ておいて欲しい大切な1本。20代という若さで死の宣告を受けて、タイトル通りの“死ぬまでにしたい10のこと”を書き留め、それを一つひとつ実践していく物語である。

私は、はっきり言って“不治の病モノ”が嫌いである。単純に言って、死を美化しすぎたり感動を強要してくるような作りには感情移入ができないのだ。しかしこの作品は、ある意味冷静に正直に死んでいく自分に向き合って、すべきことをしていくという壮絶な物語。ところがテーマはとてつもなく重いのに、原作も含めての話だけれど、それを軽やかに爽やかに、そして前向きに描いてくれている、そのこと自体に敬意を表したい作品なのだ。
 

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『死ぬまでにしたい10のこと』より

絶望だけではない、本当の意味で生きていたことの証や責任、自分が去ったときの未来までをきちんと形にしていくヒロインの心持ちに寄り添うほどに、自分の場合はどうだろうと考えることができる。自分がこの立場ならと、指を折りながら10のことを考えるはず。
よく言われるような「死ぬ前に一番食べたいものは何か?」的な思考には決してならないことが、ここでまず実感できる。つまり本気で死ぬまでにしたいことを考えることができるほど、その切実な場面に自分たちを連れて行ってくれるのだ。
 

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『死ぬまでにしたい10のこと』より

実はこの作品に出会って、少しだけ生き方が変わったと感じている。自分も真剣に考えた10のこと。ところが主人公とは違って子供がいなかったせいか、死ぬまでにしたいことが具体的に10も見つからなかったというのが現実だったのだ。でもだから逆にその時から、埋まらなかった分を探しながら生きるようになった。死ぬまでにしたいってこういうことだったかもしれないと、様々なことに深い感慨を持つようになったのだ。
 

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『死ぬまでにしたい10のこと』より

死を考えることは、生を考えること。死に向かい合うことは、きちんと生き直すということ。そのあまりに大切なことに気づかされたのは確か。まさしく、本当の意味の“死生観”というものを自分の中で紡ぐことができる作品だったと言っていい。
とりわけこれからの「風の時代」、目に見えないことを見えないままにするのではなく、自分の中でしっかりと熟成させ形にして、考えうる最高に有意義な人生を生きるために、とても重要な1本と言えるのではないか。
だから一度は観て欲しい。毎日をぼんやりとやり過ごしてしまわないために。丁寧に丁寧に心を込めて、どの日も大切な一日として生きるために。


イラスト:河村ふうこ

<掲載映画あらすじ・作品情報>

『ロシュフォールの恋人たち』

軍港の町ロシュフォールにめぐってきたお祭りの季節。
旅芸人のエチエンヌとビルのコンビが到着しショウの準備を始めた。
美しい双子の姉妹ソランジュとデルフィーヌも、新しい恋の予感を感じ思わず歌い出す。
町に駐屯している水兵マクサンス、彼が訪ねたカフェのマダムで姉妹の母であるイヴォンヌ、彼女のかつての恋人手シモン・ダム、その友達の著名な作曲家アンディ。
町中が沸き立つ週末の3日間に、彼等の出会いが交錯しては新たな恋が生まれ、かつての恋が再燃する―。
 
『ロシュフォールの恋人たち』好評発売中
Blu-ray・DVD:4,700円(税抜) 発売・販売元:ハピネット 
©️Ciné-Tamaris 1996

『また、あなたとブッククラブで』

40年連れ添った夫を亡くしたダイアン(ダイアン・キートン)。複数の男性たちとの関係を楽しんでいるビビアン(ジェーン・フォンダ)。離婚のトラウマに苦しんでいるシャロン(キャンディス・バーゲン)。熟年夫婦の危機に直面しているキャロル(メアリー・スティーンバージェン)。長年の友人である4人はある日、恒例のブッククラブで1冊の官能小説を読むことに。
彼女たちはそのスキャンダラスな文面にたちまち感化され、悩ましい日常を忘れて、恋にロマンスに気持ちも行動も大胆になっていく…。
 
 
『また、あなたとブッククラブで』絶賛公開中

2018/アメリカ/スコープサイズ 104 分/カラー/英語/ DCP 5.1ch
日本語字幕:鈴木恵美/原題『 Book Club 』/配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ
©2018 BOOKCLUB FOR
CATS, LLC ALL RIGHTS RESERVED

『死ぬまでにしたい10のこと』

アンは23歳。家族は失業中の夫と2人の娘。すぐ側にママも住んでいる。パパはもう10年も刑務所にいる。
ある日突然、腹痛に倒れて病院で検査を受けると、「あと2ヶ月の命」と宣告される。家族にも誰にも話さない。そう決めたアンは、深夜のカフェで独り、「死ぬまでにしたいこと」リストを作る。それは10項目のリストになった。
その日から始まったアンの死ぬための準備。それは同じことの繰り返しだった毎日を生き生きと充実した瞬間に変えていった。
しかし、その時は刻一刻と近付いていた…。
 
『死ぬまでにしたい10のこと』好評発売中
Blu-ray:3,080円(税込)/DVD:1,980円(税込)
発売・販売元:松竹
©2002 El Deseo
D.A.S.L.U.& Milestone Productions Inc

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監修 齋藤 薫さん
美容ジャーナリスト/エッセイスト

女性誌編集者を経て独立。女性誌やウェブサイトにおいて多数の連載を持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。鋭い視点に優しさと強さを含んだ独自のエッセイは、性別や年齢を超えた多くのファンに支持されている。『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)他、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)、『キレイはむしろ増えていく。大人の女よ!もっと攻めなさい』(集英社インターナショナル)など著書多数。

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